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キングギドラ「UNSTOPPABLE」「F.F.B」の自主回収騒動から見るHIPHOPに根深くある差別

※今回の記事は、差別的な発言もあります。ただ、事実を書いているだけです。僕自身が差別的な思想を持っているわけではありませんが、日本のヒップホップが好きなので、きちんと書こうと思いました。

 

What’s up!

今日、ディスクユニオンでCDを衝動買いしました。その中には、写真にもあるキングギドラシングル「UNSTOPPABLE」「F.F.B」もあります。この2枚は、発売後に自主回収騒動となり、後に出るキングギドラアルバム「最終兵器」には「UNSTOPPABLE」に収録されていた「ドライブバイ」は収録されず、「F.F.B」は歌詞の一部を変更して収録されました。

今回は、この2枚の回収騒動とHIPHOP文化にある根深い問題について書いていきたいと思います。

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キングギドラとは?

 

※以前書いた記事を少し転用します。

ZEEBRAという開拓者 - 404 Not Found

 

K DUB SHINEアメリカ留学中にZEEBRA日本語ラップを披露し意気投合し、ZEEBRAの幼馴染であったDJ OASISと共に、KING GIDDRA(キングギドラ)を1993年に結成、デビューした95年からRhymesterBUDDHA BRANDなどのいわゆる“さんピン世代”と共に日本のヒップホップを活性化し牽引していましたが、K DUB SHINEZEEBRAの方向性の違いから96年に活動休止。各々がソロ活動の道に進んでいき、2002年に活動再開。今回紹介するシングル2枚とアルバム2枚をリリースした後にまた活動休止。2011年に再び活動再開。

キングギドラの最大の功績は、日本語でラップをするということを可能にしたことです。今日の日本のヒップホップもキングギドラ「空からの力」というアルバムが無ければ存在しなかった、あるいは、日本語でラップをしていなかったのではないでしょうか。

日本語で韻を踏むことについては、先日書いた記事を読んでいただければ大体がわかると思いますので、そちらを参照してください。

このアルバムにより、単語と単語で韻を踏む小節の最後で韻を踏む脚韻法、が日本のヒップホップの主流となっていきました。そして、この主流から抜け出したくても抜け出せずに数々のアーティストが試行錯誤しているのが、日本のヒップホップの現状でありジレンマなんです。

このアルバムが日本のヒップホップシーンの中で今でも高評価を得ているのは、このアルバムが原点でありスタート地点であるからです。どんな有名な評論家もこのアルバムを聴いていない人はいないと思います。だからこそ、気づかないどこかでこのアルバムを基準とした一つの評価軸があるんです。そのぐらいインパクトのある作品なんです。

もう一つ特筆すべき点は、ハードコア路線だという事です。アメリカの東海岸の影響を強く受けているので、骨太でダークな雰囲気のビートと過激なリリックが特徴です。日本のリアルというよりかは、アメリカのストリートヒップホップを忠実に日本語ラップに落とし込んでいる、という感じでしょうか。

 

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このアルバムから数年後に、各々ソロの道を邁進していきました。K DUB SHINEDJ OASISは、メディア露出の少ないアンダーグラウンドで、さんピン世代から脈々と受け継がれていったコアで熱い層と共に日本のヒップホップを支えた一方で、ZEEBRAは積極的にメディア露出をし、オーバーグラウンドへヒップホップを昇華していき、キングギドラ時代からの自身のスタイルを壊すことなく日本のヒップホップの一般化に努めていきました。

 

そして、2002年にキングギドラ再始動。

当時のメディアでは、大きな注目を浴びました。

同性愛者への批判や性病に関する表現が不適切であったとし、CD自主回収騒動などもありましたが、それが良くも悪くもこのグループをさらに注目させることとなりました。2002年にリリースしたアルバムでは、覚醒剤、少年犯罪、性関連、政治関連、Dragon Ashのkjを名指しで批判、などなど過激な内容の曲も多く含まれていました。

今回の記事は、この2002年の活動で起こった事です。

「ドライブバイ」

シングル「UNSTOPPABLE」のカップリング曲として収録されていた「ドライブバイ」。ドライブバイは、(走行中の)車から発砲する、という意味でいいかと。

歌詞にある通り、「言葉のドライブバイ」ということで、比喩表現として当時の日本の音楽シーンを賑わせていた日本語ラップ勢に対してのメッセージ(Dis)ソングでした。

問題のリリックを解説していきます。

ZEEBRAのHook

ニセもん野郎 ホモ野郎
一発で仕留める言葉のドライブバイ
こいつやってもいいか
奴の命奪ってもいいか

K DUB SHINEのVerse

だって分かっててやってんだろう
そのオカマみたいな変なの

ZEEBRAのVerse

おめえの連れたアバズレのレズに
火の粉かけたくなきゃバックれろMC

同性愛差別として抗議を受ける

・「ホモ野郎」

・「オカマみたいな変なの」

・「アバズレのレズ」

これらのワードが同性愛差別だという事で、発売から2週間程度で自主回収となりました。当時のキングギドラの復活は、日本のヒップホップシーンのみならず音楽が好きで幅広いジャンルを聞くような人々にも認知されており、今回はそんな有名なグループがこのような過激な内容をリリースした事が問題でした。

どうしてリリースされてしまった?

当人たちは無自覚

当時、自主回収騒動後の雑誌インタビューでも、K DUB SHINEは自分たちは同性愛者に対して偏見を持っているわけではなく、しっかりと曲を聴いてほしいといったような趣旨の発言をしておりました。デフスターレコードも、発売前に本人たちから“差別的な意図は無い”と確認したからリリースした、と公表しました。

ヒップホップと同性愛

ヒップホップを知らない人からすれば、「どうしてそこまで無自覚なんだ!」と憤るかもしれません。それは当然だと思います。しかし、そこにはヒップホップの背景にある問題があります。

ヒップホップはアメリカの黒人コミュニティで誕生しました。

アメリカで主流の宗教はキリスト教です。キリスト教では、同性愛を禁止しており宗教上の罪とされていました。今では、LGBT運動等で差別を無くそうというムーブメントが起きていますが、未だに本場アメリカでは同性愛者や黒人をNGにしている結婚式場もあるそうです。

日本と違ってアメリカは比較的宗教色が強い国です。そんな国で主流な宗教が同性愛を禁止していたのです。つまり、同性愛者というだけで悪とされていたのです。

ヒップホップに限らず、僕が最近観た映画「ムーンライト」でも仕草が女性的で同性愛者の主人公がイジメに遭ったりしていました。

ギャングの抗争代わりにMCバトルやブレイクダンスでのバトルで決着をつけた時代の名残もあり、ヒップホップは他の音楽と違って攻撃的な側面もあります。そこで、他者を攻撃する時に使う言葉に、同性愛差別を連想させるような言葉が取り込まれるのは、このような背景があるからだと思っています。

「ドライブバイ」の本当の標的は?

憶測も含まれますが、当時のオーバーグランドで活躍していたキックザカンクルーやリップスライム、ジャニーズ系に対しての曲だったと言われています。本場アメリカの東海岸(イーストコーストサイド)を軸としてハードコア路線を突き進んでいたキングギドラからしてみれば、チャラチャラとしたポップな日本語ラップによって、ヒップホップの誤った認識が広まる事を危惧していたのではないかと思います。

それらに対して、アメリカのヒップホップのように「ホモ野郎」等の言葉を使ったり、「ドライブバイ」を比喩として使い、メッセージを送りました。

しかし、その結果「同性愛者を殺してやる」と捉えられたり、同性愛者への差別だとして自主回収に繋がりました。

この「ドライブバイ」によって、日本のヒップホップに対して悪い意味でのイメージが付いてしまったのは否めません。

「F.F.B」

「UNSTOPPABLE」と同時リリースしたこのシングルも同タイミングで自主回収となっております。

「F.F.B」は「Fast Food Bitch」の略です。この曲は、夜に遊んでばかりの女性に対して、遊んでばかりじゃなくてしっかりしろよ、というメッセージソングという事にしておきましょう。

ファストフードのように気軽にSEXや持ち帰りできるBitch、というこれまたストレートすぎる表現ですよね。今だったら、フェミニストの団体から抗議が来てもおかしくないです。ただ、ヒップホップはあくまでも現実(リアル)を切り取っているという側面もあり、このような女性もいるのは事実です。

ZEEBRAのVerse

Yo! あいつはNasty Ho
胸も体もでっけえシャブリ上手
まさにポテト・コーラ付きLLセット
いつだってガンガン ノーヘルメット
マジあいつは止めた方が絶対良い
バリューパック オマケはHIV

「オマケはHIVという部分がHIV感染者への差別だとして、自主回収となりました。

「F.F.Bのような女の子と付き合うと、自分もHIVに感染しちゃうからやめとけ。」という意味に捉えられてしまい、それがHIV感染者への差別に繋がるという理由です。

再収録された際には、「バリューパック オマケはHIV」という部分がカットされました。

HIVに対する偏見や差別は少しずつ無くなってきていますが、それでもこの曲のように誤解を生んでしまう事もあります。

ただ、これについても実際に性交渉におけるHIV感染が存在しているのも事実であり、完全に間違った事を言っているわけではありません。ここが難しいところです。もう少し表現を考えればいいのですが、それをやりすぎると何も言えなくなってしまいます。

そういった意味でも、昨今のアーティストは色々なものに配慮しなければいけないので、有名になればなるほど制約も強くなっていっているのでしょうか。

ここからはオマケ

公開処刑

ZEEBRAのVerse

星の数ほど居るワックMC
これ聴いてビビッて泣くMC
まあせいぜいスキル磨きな銘々
覚悟決めんのはおめえだkj

ZEEBRAの声やライブパフォーマンスと酷似していたDragon Ashのkjに対して、ZEEBRAが1Verseをほぼフルに使ってDisりました。この後に、kjは活動を休止しました。

K DUB SHINEのVerse

あと芸能系の聴くと勘狂う
リリックつらい 屁理屈ライム

“聴くと勘狂う”→「キックザカンクルー」“屁理屈ライム”→「リップスライムを揶揄しており、ポップ路線でオーバーグランドで活動していた2組に対してK DUB SHINEはDisをしました。YouTubeに上がっている動画では、キックザカンクルーのKREVAは当時の事を振り返って、ショックだったと語っています。そして、自身は絶対にDisを仕掛けないと誓ったそうです。

たしかに、KREVAって誰かとバチバチにやり合っている印象がないですよね。王者としての貫禄です。ただ、OZROSAURUSのMACCHOとは何曲かバチバチにやりあっているのも興味深いです。両方とも大好きなラッパーなので、いつの日にか和解してほしいと切に願っています。

「最終兵器」

Yo! シャレんなんねぇだろう
現実を描かなきゃストリートじゃねぇ
テレビじゃいいけどCDじゃ不可能?(ムリ)
言いてぇ事言うのがヒップホップだろ
周りのヤツらのケツにキスして
本当どいつもこいつも自主規制
クソみてえなのが出回ってるぜ
そろそろリアルにいかねえと
思いもよらねぇ まさかの指導(こうげき)
メディアからは恰好の標的
無視されがちな過去の功績
まぁメーカー(ヤツら)にしちゃあ上出来

Yeah こいつぁストリート・シット
他は関係ねぇ ヒップホップ的にはマジ完成型
俺ら居なきゃ何も始まんねぇぜ
戦わなきゃ何ひとつ変わんねぇぜ
物分かりのわりいことばかり
物語みてえなことばかり
事件發覚後チャートから削除
自ら暴露 順位操作の悪を
サッと目の色変えず 手の平かえす
そんで推すラッパーは手の平サイズ?
なら一寸法師の鬼退治
悪りぃがとっくにつかねぇぜ取り返し
意見が危険と事件の扱い
名刺代わり オレら流のサツアイ
遠慮は無用 説明不要
冷静な口調で自分を主張

自主回収後に発売されたアルバム「最終兵器」の1曲目に収録された曲です。歌詞はフルで載せました。

 

最後に

自分たちが意図していない部分を切り取られて、このように自主回収騒動が起きるのは大変に残念な事です。しかし、それで傷ついた人もいるのであれば自主回収は致し方なかったのかと思います。

ただ、ヒップホップの文化を深く知らずに一方的にキングギドラを批判するのも違う気がするなー、とも感じています。

表現者であるならば全てに対して気を遣え!とは思いませんが、自分の発信によって誰かが傷つくかもしれないという覚悟は持っておいたほうがいいですね。自戒も込めて。

そして、受け取る側も自分の受け取り方だけで騒ぎ立てるのではなく、しっかりと相手の背景を汲み取るべきです。ノイジーマイノリティーと括られる人たちに足りないのは、そのような部分なのかもしれませんね。